crazy crazy crazy

 母も父もぼくを憎んでいる。そう思うだけで体中が粟立つのを感じる。ぼくはその感覚を娯しんだ。腹の底から泥臭くねっとりとした憎悪が湧き上がってくる。ぼくはその憎悪をゆっくりと舐め味わう。やがてぼくは空想し始める。無防備で愛らしい幼女がぼくに笑いかける。ぼくは幼女の性器に手を触れた。幼女は楽しそうにころころと笑う。幼女のそれは毛がなく乾燥しつるつるしている。ぼくは幼女の全身を縄で縛った。幼女はまだ楽しそうに笑っている。それを見てぼくの中になにか温かい感情が生まれるので、ぼくはポケットからナイフを取り出す。ナイフでそっと幼女の性器を開ける。幼女はとたんに顔を引きつらせてもがき始める。幼女がもがくたび性器には傷がつく。ぼくは血で濡れた性器と幼女の憎しみに満ちた目に満足する。幼女は痛みと緊張で疲れ果てぐったりとしている。ぼくは幼女の血みどろの膣の中にペニスを挿入し果てた。そしてぼくは、幼女を金魚鉢の水で窒息させた。空想の中ではぼくは何もかもを支配することができる。幼い頃から空想のとりこだったぼくは、それ以外の遊びで感情を高ぶらせることはなかった。どんな遊びよりも空想のほうがぼくにとっては魅力的だった。

 ぼくは父が怖かった。ぼくは父の望んだような優秀な頭脳や輝く容姿、ずばぬけた運動神経をあいにく持ち合わせていなかった。そりゃあそうだ、あのろくでもない父と母の子なのだから。ぼくは理不尽に理由なく暴力を振るう父が怖かった。けれど、たまに夜遅く酔っ払って帰ってくる父が遊んでくれると、ぼくはとても嬉しかった。香水の臭いと酒の臭いにまみれた父。母は父が上機嫌の時は何故だかいつも泣いていた。小学校に入学すると、父の暴力は理不尽なものではなくなった。父はぼくを殴るのや蹴るのに理由をつけるようになったからだ。ぼくがどうしようもないぐずだから、という理由を。

 本当にぼくはどうしようもないぐずだったのだろうか。ぼくは父に愛されたくて、それでも愛されたくて、頑張った。勉強も、スポーツも、見かけだって。放課後、みんなでカンケリをするときだってぼくは服が汚れないように注意した。何度も手を洗って家に帰った。けれど、ぼくが頑張っても頑張っても父は腹を立てた。父は「頭が良かったけれど貧乏で中学しか出られなかった」ことを話し、「お前は幸せなんだ。それなのにこの成績は何だ」とどなった。学校に入ってすぐ、父は目に見えにくい傷しかつけなくなった。けれど先生は気付いていただろう。学校で汚れないように気をつけているぼくの制服が日に日にぼろになっていくのだから。目や体にはそれでも生傷が絶えなかったのだから。

 ぼくはだんだんと注意していることができなくなっていった。そんなある日、テスト用紙に名前を書き忘れ0点をとった。ぼくの家では夕飯が終わるとその日あったテストを渡すのが習慣となっていた。いつものように父が言った。

「今日のテストを見せなさい」

ぼくは機械的に鞄からテストを出した。そのテストを見た父は静かな顔をしていた。満足そうな顔と言うのか。ぼくは父が恐ろしくてつぶやいた。

「ごめんなさい」

父は笑って言った。

「やっぱりお前はばかだな。どうしようもないぐずだよ、まったく」

そして父の表情が一転した。

「いったい何の為に学校にいかせてやっていると思うんだ」

父はバットを持ってきた。ぼくは逃げたいのだけれど体が動かない。父はバットを大きくスイングして近づいてくる。母がぼうっとした目でぼくをみていた。

ぼくは病院に行くこともなく一週間ほど休むと学校に戻った。はれた足を引きずりながら。母は学校にどう説明したのか、先生はなにも言わなかった。ぼくはほっとした。けれど、学校から帰ると地獄が待っていた。

「今日学校から電話があった」

玄関を空けると酔った目をした父が玄関に座り込んでいた。

「おかえりなさい、今日は早かったんですね、父上」

ぼくは震える声で返事した。

「きょう、学校から電話があった」

 父は持っていたビンでぼくのはれた足をぶった。ポキンと音が聞こえた。痛くなかった。父は続けざまにあちこちにビンをぶつけた。ぼくはただ突っ立っていた。母は部屋から顔も出さなかった。

 次の日、父が仕事に行くと母はタクシーを呼んでぼくを病院へつれていった。

「あんたはまったく、お父さんを怒らせてばかりで本当にどうしようもないね」

母がぼくにかけた言葉はそれだけだった。ぼくは黙って母を見た。白髪の目立つ髪をゴムで一つに束ねた母。化粧をするといっそう目立つ皺、何も映さないお面のような目。病院につくと母は歩けないぼくを支えながら、外科へ向かった。母の能面のようだった顔に心配そうな表情が貼りついた。ぼくを診察をしたのは切れ長の目をした若い医師だった。彼はぼくを見るとすぐに目をそらした。

「どうされました」

「階段から落ちて角に思いきりぶつけて折れたみたいなんです」

母は、ね、と言ってぼくを見た。ぼくは頷いた。余計なことは言わない方が良い。

「そうですか。では診察しますので、お母さんは待合室の方でお待ち頂いてもよろしいですか」

母はぎくりとした表情を浮かべた。

「私もいっしょではだめですか」 

「はい」

母は心配そうな表情を再び浮かべた。

「でも」

「お待ち下さい」

「・・・わかりました」

母は険しい目でぼくを見た。「なにもいうな」と。そして部屋から出ていった。

「ちょっとレントゲン撮る為に、看護婦さんについていってもらえるかな」

そういって医師はぼくを車椅子に座らせた。

「怪我をしたのは足なんだよね」

レントゲン室へ向かう間に看護婦が聞いてきた。ぼくは頷いた。

「でも先生は全部撮るように言われたのよ」

そして、ぼくは全身のレントゲンを取られ、診察を受け、ギブスをはめられて、病院を後にした。

 三日後、ぼくを迎えに女の人一人と男の人二人が来た。ぼくは女の人に連れられて施設に入ることになった。母は取り乱していた。

「あなたに何の権利があって私の息子を連れ出すと言うの?」

母は泣きながらぼくを放そうとしなかった。施設に着くとぼくは優しそうな初老の女性に迎えられた。

「はじめまして。よく来てくれたわね」

そういってその女性が笑うと顔中に皺が走った。それを見てぼくは、皺でも色んな種類の皺があるのだとただ思った。その施設は思ったよりもずっとぼくにとって居心地が良かった。ぼくは誰に何を言われても口を開かなかったけれど、ぼくは体を直し、服を汚すことにおびえなくなった。

  けれど突然の訪問でその幸せな日々も終わった。母と父はスーツと背広で武装しぼくを迎えにやってきた。母の腕の向きは変だった。ぼくを迎えた女性は悲しい皺を浮かべてぼくを見送った。そして、ぼくは再び痛みの日々に戻ることになった。今度こそ父は抜かりなかった。御飯を食べさせない。風呂にはいらせない。そしてぼくの肛門にペニスを刺しこむ。それが彼の新しい痛めつけ方だった。母はぼくが戻りほっとしたようだった。ぼくは学校に戻ったけれど、ぼくが臭いので誰もぼくによってこようとはしなくなった。長い間学校を休んでいたのでクラス中に変な噂が流れていた。ぼくはその孤独な日々でますます空想に磨きをかけた。ぼくはそこそこの成績で小学校を卒業した。勉強は嫌いじゃなかった。けれどぼくは日々集中するのが困難になっていった。 

 中学に入っても相変わらずぼくは空想ばかりしていた。友達はできなかった。父は前よりもくたびれて見えるようになり、母は何も聞こえていないようだった。けれど、ぼくは義務的に尻を出し続けた。中学を卒業する頃にはぼくは父よりも大きくなっていた。がりがりだったけれど、給食だけでこれだけおおきくなったのだから、きちんと食べていたらもっと大きくなっていただろう。卒業してから近くの工場で作業員として働き始めた。危険な仕事だというのに、いつも上の空のぼくは何度も何度も怒鳴られた。そして、ある日突然ぼくは全てが嫌になった。最初の給料が出た日、ぼくは家に帰らずそのまま電車に乗って東京に出た。 

 給料だけで部屋を借りることはできなかったので、ぼくはスーツを買って運送会社に面接に行った。ぼくは2軒目で採用された。人と話す必要があまりない仕事についたので、ぼくにとって仕事はそれほど苦ではなかった。朝から晩まで働いて週に二日休みが貰える。その二日をぼくは空想の為の時間とした。しっかり食べてきちんと風呂に入るようになると、ぼくは父の若い頃そっくりになった。ドライバーになってから一年もすると彼女ができた。取引先で働いていた希美子という女だ。最初に誘ったのは希美子だった。ぼくは希美子のむっちりした腕といやらしそうな目が気に入っていた。

「雄一くん」

今日は休日で希美子がぼくの部屋に来た。

「なんだよ」

「今度、ディズニーランド連れていってよ」

「嫌だ」

人ごみからは汚臭がする。

「なんでよう」

と、希美子は頬を膨らませた。そういいながら希美子はぼくにべったりと寄り添った。(やってほしいならそういえよ)ぼくは希美子の股に義務的に手を入れた。希美子とのセックスでいったことはない。ぼくにとって性交はただの面倒な義務だ。

「やめてよ」

希美子が叫んだ。ぼくは思わず怒鳴る。

「誘ったのはお前の方だろう。やって欲しかったくせに。お前からはそういう匂いがぷんぷんしてるんだよ」

希美子はおびえた目をしてぼくを見た。そして言った。

「ごめんなさい」

希美子の目と希美子の言葉でぼくは何故かひどく苛立った。希美子はうつむいて泣き始めた。

「出てけ」

「・・・ごめんなさい」

すがるような目で希美子はぼくを見上げた。

「出てけといってるんだ」

ぼくは希美子にバッグを投げつけた。バッグからは化粧道具がばらばらと落ちぼくの部屋の床を汚した。それをみてぼくの中でなにかが切れた。ぼくは希美子を殴った。そして蹴った。希美子は叫ぶ。

「やめて。おねがいだからやめて」

蹴る足に力が入る。

「子供がいるのよ、やめて」

足が止まった。こども?

「あなたの子供がいるのよ」

「俺はおまえとやって射精したことはない」

「でもわたし、あなた以外の人とセックスしたことなんてないのよ」

希美子は嗚咽をあげながら言った。

「途中で出てくるのに混じってる事もあるってきいた」

ぼくは絶句した。子供を育てる自信など、ぼくにはない。どんどんおかしくなってゆく空想にぼくは自分でも寒気を覚えていると言うのに。父のようにならないように必死で努力して保っていると言うのに。

「いつわかった」

「昨日」

「どうするんだ」

「産むわよ、だって、命なのよ。私は一人でも産む」

ぼくはそれを聞いて希美子にバッグを渡した。

「・・・出てけ」

 その日希美子が帰った後、空想の中でぼくは希美子の腹をナイフでえぐった。腹からは胎児が出てくる。希美子は微笑む。「産まれたわ」ぼくも微笑む。「うまれたね」そして、ぼくはナイフで希美子の内臓をきれいに取り出す。「子供を食べる動物もいるのです。でもお前の子供は俺の子供だから、母親を食べなくちゃいけないでしょう」ぼくは希美子の体を切り刻み、まだ小さい胎児の口に詰めこむ。胎児の腹は異様に盛り上がっている。希美子は満足そうだ。ぼくは胎児に話しかける。「うまいはずです。新鮮ですからね」胎児はぴょんぴょんと足を蹴り上げる。ぼくは再びナイフ握った。胎児はまた足を蹴り上げる。そして盛り上がった腹はぐねぐねと動く。希美子が俺を誘っている。ぼくは胎児の腹を切り裂いて、ペニスを挿入した。

 その夜近所の金物屋でぼくは一番高い包丁を買った。小料理屋で働いていてよく切れる包丁が欲しい、といったら、店長は店の奥から包丁を取り出していった、「高いけど良いのかい」包丁は寒気がするほど光っていた。ぼくはそれを買って家に帰ると希美子に電話をした。

「落ち着いて考えた。もう一度話がしたいから、今から来てくれ」

希美子が来るとぼくは言った。

「さっきは取り乱して悪かった。産んで欲しい。同棲しよう。仕事もやめろ。俺が稼ぐから。お前は子供のことだけを考えていれば良いから」

希美子はまた泣いた。(よく泣く女だ)その晩はじめてぼくは希美子の中でいった。

 希美子は順調に赤ん坊を育てていった。まるで何かから逃れるように、希美子は際限なく食べ、体重を増やしつづけた。希美子の腹の中の胎児はよく動いた。ぼくは希美子の腹に顔を当てて胎児が腹を蹴る感触を味わうのが好きだった。そして、希美子は妊娠八ヶ月になった。(そろそろだ)ぼくはこの日だけを愉しみにしていた。

 希美子が寝つくとぼくは希美子をベッドに縛り付けた。眠りの深い希美子は目を覚まさない。包丁を取りにいって帰ってくると希美子の叫び声が聞こえた。うるさいので、ぼくはガムテープも取りにいった。希美子の口をふさぐとぼくは包丁を後ろポケットから取り出した。赤ん坊を傷つけちゃ駄目だ。ぼくは希美子の腹を刺した。けれど刺した感覚がしない。もう一度深く刺したがやはり刺した感覚がない。ぼくはいらついて希美子の足をぐちゃぐちゃに刺した。大量の血が流れ希美子はぐったりとした。気を取りなおして再び腹に包丁を入れてぐるりと丸く円を描いた。たっぷりとついた脂肪が奥まで入るのを阻む。ふと気付くと希美子は息をしていなかった。血でまみれた手で腹の切りこみに手を入れると温かかった。どくどくと心臓の音が響いた。突然音が大きくなった。目の前がぼうっと白い。目を凝らして壁を見ると血まみれの小さな尻が何百と見えるた。天井からも床からも。何百の尻は肛門からどくどくと血を流し、笑い声と共にぼくに近づいてくる。そして何百の尻が振り向くと、何百の赤ん坊のぼくが、希美子の内臓を口いっぱいにほおばっていた。ぼくは腹から手を出した。

 ぼくは部屋の窓から飛んだ。けれど、死んでもぼくの目には何百の赤ん坊のぼくが映し出されている。赤ん坊のぼくは肛門から血をどくどくと流し内臓を頬張っている。希美子の赤ん坊は命を取り留め、狂気の手前で笑っている。けらけらと笑っている。ミルクを飲みながら。

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