creme creme creme

 

平板なクリーム色の会議室に人が溢れている。僕もそこで待っていた。その恰幅のいい男は上等なスーツで身を包んでそこにやってきた。その男の名はリュックという。僕はリュックを待っていたし、その会議室に溢れる人はみなやはりリュックを待っていたのだ。リュックは何人かに話し掛け笑っている。片手に持ったシャンパンのグラスが傾いてリュックのスーツにしみを作った。上等のスーツからはシャンパンの匂いが芳ばしく香り、リュックの肉厚の頬はますます上気している。僕はそれをじっと観察していた。僕の視線に気付いたのかリュックが僕を見た。リュックは僕を見ると特殊な笑顔を浮かべゆっくりと僕に近づいてきた。

「Hi!」

リュックは僕のそばまで来て微笑んだ。

「Hi!」

「ThankYouForComingToday」

「Your Welcome」

「HowAreYouDoingTheseDays?」

「NotBad、Dear」

そこでリュックは少し顔をしかめた。

「AnywayDoYourBest!」

「OfCourse」

「Bye」

「Bye」

リュックが去ったあと僕の方に近づいてくる男がいた。男の名はアイルゴーヌ。数学者だ。アイルゴーヌは縮れた髪にベビーフェイスでブラジル人のような色気がある。背が小さく体がごつい。チェックのカラフルなシャツの下から金の厚いネックレスが透けて見えた。アイルゴーヌは僕にウインクした。彼に寄り添う綺麗な日本人女性が怪訝そうな顔で僕を見る。僕はアイルゴーヌを見ると吐き気がする。

「Hi!」

「Bye!」

僕はそういってトイレに向かった。トイレで吐き、顔を洗ったところでサイレンが鳴り出した。会議室に戻るとみんなが同じ方向に歩いていた。僕もそれに従った。

広い競技場のようなところに出た。競技場の向こうの原っぱには巨大な本当に巨大な電子掲示板があり、その競技場は燃えるように熱い。そしてみなが席に座ると鼻の長いのっぺりとした男たちにより用紙が配られた。クイズがはじまった。掲示板は左右に二つある。左の掲示板に次々とクイズが出題される。僕はルールを知らぬまま、クイズの答えを記入し始めた。三問目に来たころ右の掲示板もクイズを表示し始めた。僕は三問目がどうしてもわからない。知っているはずなのに、わからない。『スカイライクの親会社はなんと言う名前か』

隣の席の男が立ち上がる。目を上げると、巨大な扉の前に解答用紙をもったエリートたちが整列している。僕は三問目の答えを適当に書き、いそいでその扉の前に並んだ。僕はリュックに気に入られている。だから、完璧な答えでないといけない。ティッシュを詰められたようにカラカラの喉からひゅうひゅうと音がする。僕は列から出た。完璧な答えでないといけないのだ。どうしても。

 

スカイライクの店先では背が高く痩せ型の男が神経質そうに応対していた。キース、彼はキース。スカイライクの代表取締役。彼がこんな店にいるということは、リュックが答えを教えてもらいに来たものがいないかどうかをチェックしていることを意味する。僕はたどたどしく持ち帰り用のピザを頼んだ。男は顔も上げずに厨房に叫んだ。

「冷めたピザ一枚」

頭が熱く痒くなった。心拍数が上がり、呼吸が速くなる。キースは僕を見て言った。

「そうですね。答えはCeizcago Groupだろうが」

見上げるとキースは僕の注文した冷めたピザをテーブルに置いて後ろを振り返っている。キースの盛り上がった腕の筋肉はぴんと緊張している。小さな男の子が調理場から走って出てきた。片目がつぶれていてビッコをひいている。逃げている、キースから。キースは猛烈な速さで男の子を追いかけ始めた。僕は恐怖を感じた。殺される。暖簾の奥でキースの妻が薄ら笑いを浮かべている。

逃げないといけない。僕は走り出した。足が上手く前に出ない。つんのめりそうになる。僕が逃げ切れたら彼も助かるのだろうか。少年はたぶん僕だ。幼き頃の僕だ。

呼吸が上がる。喉が狭くなる。僕は必死の形相で走っている。黄色い廊下をただひたすら。走る走る走る。

『ドン』大きな音がした。僕は立ち止まった。足の筋肉が痙攣している。もう走れない。ビッコを引きながら窓のそばまで行き、飛び降りれそうな場所を探した。左目の隅に少年の死体が映った。僕の恐怖は喉から飛び出そうになった。

少年の母親が遠くの方から叫んでいる。声にならない声で叫んでいる。凶器。狂気。狂喜。その声はやがて止まり、彼女は遠くから僕を見た。僕は窓から、飛び降りた。体中を撃ったのに痛くない。僕は起き上がり逃げる。後ろを振り向いた。

「お前のせいで息子が死んだお前のせいで息子が死んだお前のせいで息子が死んだ」

女のうなり声が風に乗って聞こえてくる。僕は走ったただ走った。公園を通り過ぎ十字路を通り過ぎ階段を駆け上った。途中の公園で女の子二人が化粧をしていた。とても綺麗な女の子たちは笑いながらお互いの頬紅を塗りたくっている。その図が僕の右目の隅っこに映ったまま消えない。僕はクイズ会場に着いた。重い扉を開けるとリュックがいた。参加者はもう誰もいない。

 

「YouSoLate,Huh」

「SSSSSorry」

僕はくちゃくちゃになった解答用紙をリュックに渡した。

リュックはそれに目を落とし、何も言わない。

僕はリュックが失望しているのを感じた。

やがてリュックは言った。

「美しいが、君には制裁が必要だ」

「NoNoNOnONONOnonooOoo」

リュックの脇にいたごつい男たちが鉄アレイを持って近づいてくる。

その瞬間。『バタン』扉が開いた。

「みつけた」キースの妻がにやりと笑う。僕は何もかもどうでもよくなった。思考停止。

ポケットに手を突っ込むと包丁が入っていた。僕はキースの妻を見た。彼女は僕にサインした。『あんたの番よ』とウインクする。僕はウインクを返し、思い切り包丁を投げた。リュックの首がぽんと飛んだ。だだだだと音がし、脇にいたごつい男たちが、キースの妻に機関銃で撃たれた。僕はリュックにゆっくりと近づいた。首からは噴水のように血が吹き出ている。僕はリュックの白くてぶにゅぶにゅの腹を包丁で割いた。中から無数の透明な粒粒が見えている。僕は一つの臓器を取り出して絞った。透明な粒粒が束になって落ちた。

「あんたそれくらいが丁度良いよ」

キースの妻が僕を見ていった。

何のことだろうとうつむくと僕の体はたっぷりとした脂肪に包まれ、てかてかと光っていた。僕もそれをみてキースの妻に微笑んだ。

「YouRight!丁度良い」

 

MissCeizcagoはキースの愛人で、キースによる暴力の日々に苦しんでいる。キースの妻は息子が生きがいだった。キースは強い力と衝動で生きている。だけど本当はそれほど単純ではない。そう、単純ではない。

MissCeizcagoは逃げたいけれど逃げられない。でも、もしもあなたが彼女を知っているのなら、彼女に助けの手を伸ばしてみて欲しい。お願いします。

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